所得税調査の事例

第二回 元特別国税調査官による所得税調査の事例(2)接待交際費について

Q

青色申告会の決算申告指導会に参加して、平成30年度確定申告書を提出しました。その時に「接待交際費が多いのではないか?」と青色申告会で言われました。取引先との飲食やお中元、お歳暮などで経費になるものですが、税務署の調査で指摘を受けることがあるのでしょうか?

税務調査において、計上した接待交際費に経費性がない場合は否認されるケースがあります。税務調査では、接待交際費のみならず収入から経費全般をチェックしますし、異常に接待交際費が多いとか、収入が同規模の同業者と比べて接待交際費の割合が多い場合などで、選定表(第一回参照)のデータに異常値が見られた場合は、念入りにその実態が進められます。

解説

個人事業者にとって接待交際費といえば、売上先や仕入先、外注先との飲食などを通じて、感謝や取引継続依頼の意味合いがあり、収入に直接関係があるのが一般的かと思います。しかし、調査をすると、得意先や取引先とは関係のない親戚や友人との飲食などが含まれている場合があり、事業者の中には親戚や友人から情報を得ているのでそれも経費だと主張される方もいます。

では、経費として認められる線引きはどこにおくのでしょうか。

所得税法では、37条(必用経費)に「…(中略)事業所得の金額(中略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額(中略)とする」と規定されています。

ここで肝心なことは、『必要経費として認められる費用は、収入を得るために直接に要した費用』であって、間接に要した費用は認められないという点です。得意先や取引先は収入と直接結び付くことが多いですが、親戚や友人は間接的なものだったり私的なものだったりするため否認されるケースが多くみられます。

個人事業の場合の間接的な費用が経費として認められるならば、事業関係の支出のみならず、生活の衣食住から始まってあらゆる支出が経費となる可能性もあることから、経費の認定が収拾困難となるからです。

調査官は支出計上した費用が収入を得るためにどのように直接関係があるか訊いてきます。事業主はこの質問に対して、領収書を提示するのは当然ですが飲食などした相手が得意先か、収入とどういう結び付きになるのかなど直接的な費用であることの根拠を明確に示して答えなければなりません。

その答えの内容によっては、「反面調査」といって事業者が支払った飲食店に行き支払い金額や人数などを確認したり、接待した取引先に行き飲食の事実関係や内容を裏付けるために調査することもあります。

私の調査経験では、事業者は得意先の接待だと強く主張していましたが、反面調査の結果、例えば家族での食事だったり、得意先の方と飲食はしていましたが、店の領収書を書き加えて水増し計上をしていた事例もありました。

お中元、お歳暮についても、送り先が得意先などの取引関係者であれば交際費として認められます。しかし、親戚や友人・結婚の仲人などの場合は、事業とは直接関係なく私的なものとして交際費としての経費は否認されます。

執筆:税理士 石倉祐司