相続・贈与の注意点

第6回 税理士による相続の基礎(2)

Q

私の父は平成29年4月25日に死亡しました。父はアパート6室を賃貸しており、毎年、青色申告で確定申告をしていました。相続人は、母、私(長男)、弟(次男)の3人(全員同居)で、遺産分割協議は未確定ですが、6月30日に所得税の準確定申告書を提出して納税しました。
相続税の申告は10カ月以内と聞きましたが、財産が少なくても申告しなければいけませんか? 父の財産は、アパート以外に自宅があり、どちらも同じ土地の上に建っています。

相続税の課税対象は、お父さんの残した相続財産から借入金やローン等の債務と葬式費用を引き、これに母、私(長男)、弟(次男)の3人が過去3年以内にお父さんから受けた贈与財産や相続時精算課税制度を利用した財産があれば、これを加算した金額が相続税の合計額となります。

解説

(1)まず、遺産分割協議が未確定であることを前提に検討します。

お父さんから過去3年以内の贈与財産等はないものとし、借入金等の債務もなく、葬儀費用を300万円と仮定しますと、相続財産の合計額から葬儀費用の300万円を差し引いた金額(これを「正味遺産額」といいます)が、基礎控除4,800万円より多い場合、相続税の申告が必要です。

基礎控除は3,000万円+600万円x法定相続人の数(母・長男・次男の3人)で4,800万円になります。

(2)相続税の計算において、遺産分割が確定しているなど一定の要件に該当すれば、居住用の宅地、事業用の宅地、貸付事業用の宅地について、その資産の価値を減少する「小規模宅地等の特例」があります。
小規模宅地等の特例
  • 被相続人の自宅敷地を相続人相続し、(注)特定居住用宅地等に該当する場合、330m2まで部分について通常の評価額から8割減額されます。
  • 賃貸アパート等の小規模宅地の特例適用要件には、相続税申告期限までの所有継続が必要で、200m2までの部分について通常の評価額から5割減額されます。
  • 特例の対象となる特定居住用宅地等と貸付事業宅地等がある場合、合計200m2が限度面積

この特例の適用を受けるためには、具体的な遺産分割が確定していることが必要です
この特例の適用を受けることにより計算上の相続税額がゼロとなる場合であっても相続税の申告は必要です。
当初「正味遺産額」が基礎控除を超えていても、「小規模宅地等の特例」と適用することで土地の評価額が減額された結果、「正味遺産額」が基礎控除以下となれば相続税額は0となります。

(注)特定住居用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の居住の用に共されていた宅地等で、一定の要件に該当する相続人が相続税等により取得したもの。

(3)質問では、遺産分割が確定していませんので、「小規模宅地等の特例」の適用を受けることはできないため、上記(1)で計算した「正味遺産額」が基礎控除額を超えるときは、死亡後10カ月以内の平成30年2月25日までに相続税に申告をして納税しなければなりません。しかし、申告期限から3年以内に遺産の分割がされた場合は、「小規模宅地等の特例」を適用(上記回答(2))できますので、遺産分割した翌日から4カ月以内に更正の請求をして相続税を還付してもらうことができます。
(4)遺産が少ないから申告をしなくても大丈夫と放っておくと、後で税務署からお尋ねや呼び出しがあったりします。また、とりあえず相続税の申告をして、納税後に「小規模宅地等の特例」を適用する更正の請求をして還付を受けるときの手間暇や気忙しさを考えれば、申告期限である平成30年2月25日までに遺産分割協議を確定させたうえで「小規模宅地等の特例」を適用し、納税額0円の申告をすることが一番の得策と思います。

執筆: 税理士 石倉祐司

訂正

(3)2行目「死亡後10カ月以内の平成30年2月25日まで」と記載しましたが、平成30年2月25日は日曜日なので、正しくは「平成30年2月26日まで」となります。